こんにちは、風テラス相談室です。
風俗の現場では、ルールを守らないお客さんからの性暴力被害に遭ってしまうことがあります。こうした行為は、風俗の現場であっても決して許されることではありません。
しかし、残念ながら、
「無理やり本番行為をされたけれど、どうしたらいいか?」
といったご相談が、風テラスにも多く寄せられているのも事実です。
そこで、2023年7月13日の刑法改正によって新設された「不同意性交等罪」について解説していきます。
「不同意性交等罪」とは何か(これまでと何がどう変わったのか)
前提として、これまでの刑法では、①「強制性交等罪」と②「準強制性交等罪」という二つの犯罪が規定されていました。
しかし、
①「強制性交等罪」は「暴行又は脅迫を用いて」行われた性交等を処罰するもので、
②「準強制性交等罪」は「人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて」行われた性交等を処罰するものでした。
つまり、①暴力的な行為がされた場合か、②昏睡状態などを利用してされた場合しか処罰できないため、たとえば上司から性行為を求められ立場的に抵抗ができなかったような場合などは、無罪になってしまう可能性があったのです。
そこで、新しい「不同意性交等罪」は、上の①と②を統合して、「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて」行われた性交等を処罰することとしました(刑法177条1項)。
もっとも、法律は以下のような「行為」と「事由」(状態)も要求しています。
一 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。 二 心身の障害を生じさせること又はそれがあること。 三 アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。 四 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。 五 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。 六 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕がくさせること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。 七 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。 八 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。 |
このうち、たとえば、五号は不意打ちのような場合を想定しています。
このように、一〜八号に当てはまる場合か、類似する場合には、「不同意性交等罪」として処罰されることになったのです。
このほか、被害者を騙してわいせつな行為でないと誤信(誤解)させたり、人違いさせたりした場合や、それを利用した場合も「不同意性交等罪」として処罰されます(刑法177条2項)。
また、「性交等」の定義も拡大され、指や物などの性器以外のものを膣や肛門に挿入する行為まで含められるようになりました。
なお、新設された「不同意性交等罪」は文字通り被害者が同意していなければ全ての行為を処罰するというわけではなく、あくまで客観的に拒否できない状態にさせる行為やそのような状態が存在する場合に限定されています。
どんな罰則があるの?
次に、罰則については、基本的にはこれまで通り変更はなく、「5年以上の有期拘禁刑」とされています。
夜職関係者が覚えておきたいポイント
1つ目のポイントは、「必ずしも暴力的な行為や昏睡状態等を証明できなくてもよい」という点です。
夜職の現場では、たとえばデリヘルのサービス中など、そもそも同意なくして挿入行為を行うのが容易な場合が多く想定されますが、改正後は不意打ちを利用した場合なども明記されたので、これまでより犯罪を立証しやすくなったと考えられます。
2つ目のポイントは、騙されて同意した場合は「わいせつ性の誤信や人違いに限って不同意とされる」という点です。
例えば、デリヘルで働くA子さんに対して、「1万円払うから〇〇をさせて欲しい」といって同意の上で性的な行為をした男性が約束の1万円の支払わなかった場合、A子さんは騙されたことだけを理由に「不同意性交等罪」だと主張することはできません。
3つ目のポイントは、「指や物などの性器以外のものを膣や肛門に挿入する行為も性交等に含まれるようになった」という点です。
性暴力の被害にあったら、どうすればいいの?(対策の解説)
法律が変わった後も、性暴力被害の予防策と被害に遭ってしまった後の対応策はこれまでと同じです。
1.身の安全を確保して、すぐにお店の人、あるいは警察に連絡する 2.ワンストップ支援センターを利用する 3.被害に遭った時の衣服や犯人の言動についてメモなどの証拠を残しておく |
⇒詳しくは、こちらのマンガをご覧ください。
知っておきたい本番強要被害の予防と対策(https://futeras.org/2580/)
なお、改正で慰謝料の相場が変動する可能性もあるので、加害者から「○○円の慰謝料で示談したい」という申し出があったら、その場で回答せず、「弁護士に相談して回答します」と伝えて、弁護士に相談することをお勧めします。風テラスにご連絡頂く形でもOKです。
終わりに(まとめ)
・風俗で働いているのであれば、性暴力を受けても被害を立証することは難しい
このような理由で、本番強要の被害に遭ったときも、誰にも相談できなかった、という方もおられるかもしれません。
確かに、風俗での性被害の問題は残念ながら立証が難しいですが、今回法律が改正されて、本番強要などの行為を「不同意性交等罪」として立証しやすくなりました。
泣き寝入りする被害者を増やさないため、そして本番強要が当たり前のように横行している夜の世界を変えていくためにも、万が一被害に遭ってしまったときは、ためらわずに警察や弁護士に相談してくださいね。