第3話 印象深かったお客様

最終更新日:2025年1月23日

このお仕事をしていると、本当に色々なお客様と仲良くなれます。
普通に生活していたら、絶対に会話することもないようなお客様が沢山。

いくつも会社を持っている社長さんとか、プロ野球選手とか、有名大学教授とか。
びっくりするようなオモシロ話や裏話を手土産に、遊びに来てくれるんです。
それだけでも貴重な経験。
当然、私たち風俗嬢の印象にも残ります。

…でもね。紫音が風俗嬢として、今まで8000人のお客様を接客してきた中で、
特に印象に残っているのは、そういった「有名な人たち」ではないんです。

そう。あれは、8年前。紫音がまだ19歳のときでした。
風俗嬢として頑張るようになってから、やっと1年が過ぎた、ある日。
いつも通りに出勤すると、お店の男子従業員のリーダーみたいな人が困ったような顔をしながら紫音のところにやってきて、こう言いました。

「ちょっと相談なんだ。あんまりこういう事って無いんだけど…、耳が不自由なお客様の接客できる?」と。

どうやら受付に、耳の不自由なお客様がいらしたようなのです。
耳が不自由という事は、彼自身も声を出して上手にお話することができない。

フロントに立っていた従業員さんも、ちょっと困っている様子でした。
紫音は少し考えてから「なんとかやってみます、大丈夫です」と答えました。

でも正直、不安もいっぱいありました。
時間も守らなきゃいけないし、ちゃんとシャワーも浴びさせてあげなきゃいけないし…。

何より、会話無しでのコミュニケーションが上手にできるか、本当に不安でした。
そこで、一冊のノートと鉛筆2本をお店に用意してもらい、それを使って会話してみようと思いました。

そして、そのお客様とのご対面。
お客様の方が緊張しているのか、まったく笑顔を見せてくれません。
手を繋いで一緒にお部屋に入ったものの、お客様の緊張はほぐれないようでした。

紫音は、ノートに自分の名前と「楽しい時間にしようね♪」と一言だけ書いて、
急いでお客様に見せました。

すると、さっきまでのカタい表情がフッと和らぎ、
嬉しそうに鉛筆をとって「こちらこそ、よろしく」と書いてくれました。

それからプレイまでの少しの間、ノートの文字を通して「好きな動物の話」とか「旅行の話」とか、他愛もない会話を楽しみました。

この日の帰り際、お客様が最後に書いた言葉は
「こんなに楽しい日は今まで無かった。必ずまた来るから、その時にもいっぱいおしゃべりしようね」
というものでした。
ノートに書かれたその言葉を見たとき、紫音は本当に嬉しかったです。

そして、その後ほんとうに何度も遊びに来てくれました。
あのノートにも、たくさんの文字が刻まれていきました。

でも、最初に会ってから1年もたたないうちに、そのお客様は遠くへ引っ越すことになってしまい、お別れの日がやってきました。

最後の日、そのお客様がノートに書きました。
「このノート、持って帰りたい」と。
「もちろんいいよ」と紫音が書くと、お客様は「ありがとう」と書いて紫音に見せたあと、
自分のカバンに、大事そうにノートをしまいました。

帰る時も、何度も振り返って笑顔で手を振ってくれていたのを覚えています。

風俗嬢のお仕事って「エッチなサービス」をするだけではないんですよね。

お客様の心を癒すことのできる風俗嬢さんが増えてくれたら嬉しいなぁと紫音は思っています。

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